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2009/10/29

即興で踊りましょう

踊り。ダンス。うれしいとき、楽しいとき。発散したいとき、ひとは踊ってきました。日本でも盆踊りから社交ダンス、クラブでのダンスとそれぞれ幅広い世代に幅広い種類の踊りがありますが、必ずしもみんなが踊るわけではありません。フランスでは友人の家に集まるホームパーティでも最後はダンス、または、結婚式の二次会もダンスと、かなり踊りが身近です。パリ中心部のある超高級ホテルの大広間で、結婚式を終えた新郎新婦と来賓がディスコミュージックに合わせてミラーボールのきらめきの中、激しい踊りを踊りまくっているのを見て驚いた記憶があります。ご年配の方ほどノリノリだったりして、「ちょっと日本の結婚式ではあり得ないなあ・・・和服だと難しいし・・」などと考えてしまいました。

踊りは基本的には即興です。ステップは決まっているものもありますが、フロアの大きさによって、その面積に入っている人たちの「人口密度」によって使える床面積が変わるわけですから、ダンスはそのときにあわせて臨機応変に変えるのが普通ですね。

ということで、今日は「即興」と「踊り」をお題に即興でお話ししたいと思います。

コメント

本田 聖嗣様

 今日、本田さんが贈って下さったテーマは「即興&踊り」でした。朝から夜まで私の脳裏にエリック・サティ「ジムノペディ」のメロディーが流れ続けております。心地良い穏やかな神秘的響鳴となって、そして「即興」というイメージの反芻を伴って…。

 「即興」は私にとって少なからず興味・関心を掻き立てます。「即興」は決して単なる思いつきのような次元ではなく、日頃の演奏活動で血肉と化した芸術家の根源的生命が結晶化され、自ずと湧き出る世界の為せる神技、と表現出来るのではないでしょうか。

 「即興」は決して儚い一過性のものではなく、それどころか、時代を超える古典(クラシック)の古典性たる精華を示唆している演奏形態のように思えてなりません。換言すれば、古典となる音楽の真実を思い描かせる「生命の発露」ではないでしょうか。

 それを思えばエリック・サティの音楽は、決して異端としての音楽ではなく、正統の型を示唆する「原初の生命」のような即興的世界ではないかと思われてきます。「異端的正統」とでも言いましょうか、サティは型の世界に囚われるのを嫌い、自分の音楽的世界から苦闘と共に曲を湧出させた人物のように見えて仕方がありません。

 これこそ、まさしく並の人間では出来る技ではなく、正統も異端も併せ呑む「呑舟之魚」の如き才能溢れる人物でなければ到底達成できない技でありましょう。

 反骨の、奇矯な、異端児のような作曲家と思われがちなサティは、実は古典を平気で脱構築出来るような並外れた才能で以って、古典の古典性、音楽の原初的生命を、その時代に即興的に表現した類稀な作曲家、ミューズの女神を己の心から誘い出したダダイズムの作曲家だったのではないでしょうか。

 音楽の本質に常に拘り続け、その表現に苦闘し続け、その果てに即興的に湧出してきた曲が、クラシックの作曲家としてのサティの真実の姿ではないかと信じます。思い切って言えば、サティは「音楽の哲人」だったのではないでしょうか。そういえば彼は「ソクラテス」という曲を1918年に作曲しています。

 どのようにでも演奏できる魔性の旋律に感じられるサティの曲は、楽譜の音の響鳴を、音の原初の命として聴き取れる「音楽の哲人」としての鋭く深い感性によって、初めて正体を現してくるように思われます。

 私は何故かサティという作曲家の魔性、魅力に招き寄せられます。類稀な異端的正統の作曲家、「音楽の哲人」としてのサティに。

 お終いに詩人ジャン・コクトーがサティに捧げた弔辞の中から、サティ像を詩的に美しく表現した個所を紹介して今回の拙文を閉じます。今日の素晴らしいテーマを贈って下さった本田さんに心から深く感謝しつつ。

 「僕はエリック・サティを宗教的に賛美し、愛し、そして助けた。彼の死は、僕に人生をいとわしく思わせる過去帳を長くした。(中略)彼は天使のような忍耐を持っていた。だから一九一七年から一九二四年にかけて、僕たちは園芸家の言う「遅咲き」のように見えた。人々がひからびたと思っていたサティは、花や果実を一杯身につけていた。その素直な枝ぶりは、あまりに多くの人工にあきた青年たちを薫らし、その滋養となった」(ジャン・コクトー「芸術論」堀口大學・佐藤朔共訳、人文書院刊)

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本田聖嗣

東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒。パリ国立高等音楽院ピアノ科・室内楽科を共にプルミエ・プリ(1等賞)で卒業。在学中よりヨーロッパ各地で活動を始め、2000年秋、東京・紀尾井ホールにて、「馥郁たるパリの香り」のタイトルの下に日本国内ソロリサイタルデビュー。同タイトルでオクタヴィアレコードより2枚のアルバムも発売されている。

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