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2008年2月

2008/02/29

ロッシーニ、ジョルジュ・ドン、ショパン・・・

二月の最終日、28日あるいは29日は星座でいうと魚座の真ん中ですが

このあたりは歴史に名前を残す芸術家の誕生日が目白押しだったりします。

まず、ずばりうるう年の1792年2月29日にイタリアのペーザロで生まれたジョアキーノ・ロッシーニ、

生涯で39のオペラを作曲し、37歳でオペラ作曲家を引退してプロの美食家&シェフになったこの人物を思い出さずにはいられません。

ロッシーニのホロスコープを見ると、やはり五感の快楽・味覚の洗練を「究極的に求める」

という相があり、それが魚座ならではの「音楽的才気」「他者と共有する霊感」というものに

結びついたと考えられます。

そして2/28日、1947年、アルゼンチンで生まれたダンサーのジョルジュ・ドンもまた

この誕生日=魚座に相応しい官能性と想像力の持ち主だったといえます。

西洋占星術でダンス・舞踊を表示するのは火星と海王星のアスペクトなのですが

魚座の支配星は海王星であり、そこにドンの世代の「土星・冥王星の合」という

「物事を殺人的に究める」という特徴が加わり、究極の表現が生まれていきます。

魚座はまた愛情がすべて、というロマンティックな一面もあり、これが崩れ去ると

仕事も人生もボロボロになってしまいやすいという傾向があります。

二月が終わり、三月に入ると、一日がショパンの誕生日。

一説には2/23生であるともいいますが、太陽と冥王星が綺麗にコンジャンクション

という相を作っていた1810年3月1日は、ショパンの誕生日として相応しい日だったの

ではないか・・・と推測してしまいます。

今日は、そんな作曲家、ダンサーの話に加え、25日に発表されたアカデミー賞について

など、色々お話してみたいと思います。

小田島

2008/02/28

サントリーホール「フィガロの結婚」の稽古を見て

サントリーホールからTBSまでは歩いて15分くらいなので、番組に間に合うぎりぎりまでサントリーホールで、ホールオペラ「フィガロの結婚」の稽古を見てきました。ちょうどオケあわせ(オケからすれば歌あわせ)という段階でした。観ていられたのは40分ほどでしたが、それだけでも大変な情報量を得ることが出来ました。

スザンナのダニエレ・デ・ニースだけでなく、歌手のレベルは大変高いです。そしてそれを引き締めるルイゾッティの指揮こそ、今回の公演の成功を約束する大きな鍵だと言えるでしょう。歌を、オペラを知り尽くした、エネルギッシュな素晴らしい指揮者です。

Isbn4896420896 「プーシキンとロシア・オペラ」(田辺佐保子著/未知谷)

ロシアの文豪プーシキンは、ちょうどベートーヴェンやシューベルトと同じ時代の人でしたが、その後のロシア文学界のみならず、音楽の世界にも絶大な影響を与えました。プーシキンがいかに作曲家たちにとって豊かな霊感の泉だったかを教えてくれる本です。こうした文学的な観点からの音楽への論述は、もっとたくさん読みたいものです。教えられるところの多い一冊でした。

                                                   林田

2008/02/27

いまから少しずつ

そろそろシューベルトを予習し始めたいですね。大好きな作曲家ではあるものの、私も本気になって集めたり、くまなく聴きまくるということはしてこなかったので、今度の連休のラ・フォル・ジュルネを目標に、この2、3ヶ月ほどは、じっくりシューベルトと向き合うことを一つの課題にしていこうと思っています。

0020590_2 「ベートーヴェンの日記」(メイナード・ソロモン編、青木やよひ、久松重光訳/岩波書店)

シューベルトが生涯目標とし、乗り越えようとしていた巨大な存在がベートーヴェンでした。ベートーヴェンに関する伝記的な書物はたくさんありますが、生のベートーヴェンの言葉がこれほどそのまま読めるものは意外に少ないのです。これは1812年から1818年の間にときおりベートーヴェンがつけていた日記(というより断片的なメモ)で、生々しい作曲家の人間像をもっともよく伝えるものです。著名な音楽学者ソロモンの注釈も要を得たもので、ベートーヴェンを愛する一般読者へのよきサポートとなっています。書店での入手はやや難しいようですが、図書館なら大丈夫です。

                                                  林田

2008/02/26

ニューヨーク・フィル平壌公演

ニューヨーク・フィルの平壌公演がついに行われました。音楽はときとして政治の世界に大きなかかわりを持ちますが、今回ほど注目されたのは久しぶりではないでしょうか。生放送の合い間に、TBS局内のモニターで、平壌公演の一部始終を見ていましたが、金正日総書記は結局姿を現しませんでした。スポンサーとして話題になったチェスキーナ永江洋子さんの姿は見ることができました。中継されたコンサートの曲目は以下です。

ワーグナー:「ローエングリン」第3幕への前奏曲

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

ガーシュウィン:「パリのアメリカ人」

~以下アンコール

ビゼー:組曲「アルルの女」よりファランドール

バーンスタイン:「キャンディード」序曲

アリラン

アンコールの「キャンディード」は、指揮者なしで演奏されました。曲目を紹介するときに「ここにレナード・バーンスタインがいたらどんなに良かったでしょう。ここに彼がいることを想像してみてください」といった意味のことをマゼールが言って指揮台を指差して退場し、誰もいない指揮台を前にしての演奏となりました。ニューヨーク・フィルのメンバーの誰もがバーンスタインを想像しながら演奏する「キャンディード」序曲! 天上のレニーは、この粋な計らいにきっと喜んだに違いありませんし、ニューヨーク・フィルにとっても自分たちのルーツを思い出すきっかけとなる印象的な一瞬だったに違いありません。どのように政治的に利用されることになろうとも、ニューヨーク・フィルが今回の平壌公演をどのようにとらえていたかが、端的にわかる出来事でした。各方面の報道を見ていると「キム・ジョンイルの宣伝に利用されるだけだ」という主張が目立ちます。確かにそうかもしれませんが、それでも、実際、「新世界」などマゼールとしても会心の、鬼気迫る演奏だったと思います。このコンサートは北朝鮮全土に放送されたらしいですが、彼らの音楽が国境を超えた人間的なメッセージを、心から心へと届けることになったと思いたいものです。いや、もっと別の言い方をするならば、音楽がコンサートホールで鳴っている間だけは、誰しもが国籍も属性も関係なく、ただ一人の人間に戻り、そして心の時間を持てる――そのこと自体が重要なのです。

419d466r4el 「フランス詩の散歩道」(安藤元雄著/白水社)

ちょっと古い本で、入手しにくいですが、図書館なら見つかるはずです。フランスに関心ある人ならぜひおすすめの本です。エリュアール、ネルヴァル、ヴェルレーヌ、ボードレール、マラルメ、ランボー、ヴァレリー、アポリネールといった有名詩人たちの作品から、平易なものが選ばれ、フランス語の原詩とともに鑑賞方法とそれぞれの詩人についての解説が、非常にわかりやすく書かれているのです。ここにはフランス詩の魅惑的な世界への絶好の扉が開かれています。もちろん、この世界とフランス音楽の世界とは、すぐ隣同士です。それにしても、詩の世界とは、何と音楽に近いのでしょうか。というより、音楽的であることこそが、詩の理想なのですね。

                                                   林田

2008/02/25

ヘビースモーキング

愛煙国(?)フランスでも公共の施設で全面禁煙になるなど、今年に入ってから

嫌煙ムードは加速していますが、私も煙草をやめて早六年になります。

不思議なもので、昔は平気で何本も吸っていたのに、今ではタクシーやホテルの客室で

少しでも残り香があると、気になって仕方ありません。

先日も、珍しく禁煙・喫煙エリアが分けられていないビストロで食事をした際

すぐ後に座っていた女性が煙草を吸いながら食事をしていて、煙がもろに

やってきたものですから、とても胸苦しく不快な思いをしました。

一方では、クールな愛煙家のエピソードも忘れてはなりません。

セルジュ・ゲンスブールの厭世観たっぷりの曲は、ものすごい量のジタンなしでは

生まれなかったでしょうし、作曲家のグラズノフ、指揮者バーンスタインも有名な愛煙家でした。

マレーネ・デートリッヒも死ぬ直前まで「大戦の頃から吸ってます。おかげで健康」

とクールに言い放ってます。先日見た映画「つぐない」でも、キーラ・ナイトレイ演じる

1930年代のヒロインが、面倒くさそうに煙草を吸うシーンがなんともスタイリッシュでした。

嗜好品と芸術には、ひょっとしたら深い関係があるのではないか???

そんなことを考えながら、今日はトークしてみたいと思っています。

小田島

2008/02/22

長編への意志

20日の水曜日に観た二期会の「ワルキューレ」は、ここ数年観たワーグナーのオペラの

中でも、テキストのもつ始原性をヴィヴィッドに浮き彫りにするものでした。

休憩二回込みで四時間半、というボリュームもこのオペラならではですが

新演出と、ダイナミックな装置・美術の効果で改めて気づく魅力も多かったです。

ワーグナー・オペラを観はじめたばかりの頃は、リングの物語全体が

とても男尊女卑的に感じられたものでしたが、これは歪んだ女神崇拝でも何でもなく

自然への深い畏敬の念を思想化したものだ、と理解するに至りました。

長編でなければ描けないもの、描き得ないもの、のパワーも同時に感じました。

映画の世界でも、若手監督の間で「大作主義」「古典主義」が復興しているように見えます。

物事が展開するスピードが加速している時代であると同時に、芸術家が「自分の時間」を

見出そうとしている時代。それが21世紀なのかも知れません。

話題の映画「つぐない」(ジョー・ライト監督)の感想などもまじえてトークする予定です。

小田島

2008/02/21

ラウラ・ミッコラのブラームス

0859 先週木曜日に引き続いて、フランスのレーベル、aeonの新譜をご紹介します。フィンランドの女性ピアニストでたびたび来日公演も行っているラウラ・ミッコラによるブラームス作品集(AECD0859)です。ピアノ・ソナタ第1番とヘンデル変奏曲がメインですが、初期の珍しい作品、「スケルツォ」op.4と、グルックのオペラのテーマによる作品でクララ・シューマンに捧げられた「ガヴォット」(作品番号なし)も注目されます。

1597581 「年表で読む二十世紀思想史」(矢代梓著/講談社)

中央公論社の編集者で私も個人的にお世話になっていた笠井雅洋さん(ペンネーム:矢代梓)の遺作となった本です。1999年に亡くなられているのであれから9年も経つのですね。笠井さんは、人と人が出会うということ、そのことで何か触媒反応が起きるということに、とても情熱を燃やしておられました。私が青柳いづみこさんと出会ったのも笠井さんのおかげでした。この年表は、そうした笠井さんの執念の賜物です。いろんなジャンルの出来事が関連しあって何かが起きていく、ということをこの年表は雄弁に物語っています。1883年、ワーグナーの死とマルクスの死が1ヶ月しか違わないということに、笠井さんはひどく興奮しておられたのを覚えています。この年表も、そこからスタートしています。

                                                    林田

2008/02/20

ダニエル・ドゥ・ニース

Uccd1208_danielle_de_niese_2 3月6.9、12日にサントリーホールで行われるホール・オペラ「フィガロの結婚」にスザンナ役で出演するダニエル・ドゥ・ニース(ダニエレ・デ・ニース)のショーケース(マスコミ向けミニライブ)が、表参道の假屋崎省吾さん邸で行われました。

彼女の歌は、2年前にナントのラ・フォル・ジュルネでヘンデルのカンタータを聴く機会が偶然ありました。そのとき受けた衝撃についてはいくつかの雑誌にも書いたのですが、このようにメジャーデビューするのは当然のことだろうと思っていました。それくらい、キュートなルックスと素晴らしい声を持つ逸材だったのです。

今日行われたショーケースでも、ヘンデルのアリアを歌いながら、躍動感ある踊り(!)まで披露してくれました。歌って踊れる、まぶしいくらいのこの若き歌姫が、日本でもきっとたくさんのファンを獲得するに違いありません。

                                                   林田

2008/02/19

熊川哲也さんにインタヴュー

先週、Kバレエ・カンパニーの新作バレエ「ベートーヴェン:第9」を振付・稽古中のスタジオを訪ね、熊川哲也さんにインタヴューしました。熊川さんに取材するのは今回で2回目なのですが、音楽の話でとても盛り上がるのです。どんなダンサーでも音楽好きだろうとは思いますが、彼のような舞踊の世界で大をなしている才能と音楽の話をするのは、本当に楽しいですね。3月6日のこの番組でご紹介する予定です。

L4783715971 「イェイツの詩を読む」(金子光晴、尾島庄太郎著、野中涼編/思潮社)

ケルト文化に関する世界的な関心の高まりは、イェイツの影響が大きいと言われます。そのイェイツに直接会ったことのある尾島庄太郎と、詩人・金子光晴の共著による、イェイツの詩とその注釈集です。とても読みやすい訳である上に、対談形式による率直な解説が詩へのよきガイドとなっています。少ない、選び抜かれた言葉をじっくり味わううちに、イェイツの魔術的・幻視的な世界が少しずつ開かれてきます。個人的には、イェイツの詩に絶大な影響を受けた作曲家・バックスの理解にも大いに役立ちました。

                                                  林田

2008/02/18

ラ・フォル・ジュルネ2008プレイベント

今日は、先週国際フォーラムで行われたラ・フォル・ジュルネ2008のプレイベント

「第一回クラシック・ソムリエ・サロン」の様子と、ルネ・マルタン氏おすすめの

今年のラ・フォル・ジュルネの聴きどころ、味わいどころをご紹介いたします。

テーマが「シューベルトとウィーン」であることから、シューベルトが生きたウィーンも

大きくフィーチャーされ、シュトラウス二世のポルカや、マーラー編曲の歌曲も

聴くことができます。シューベルトがかつて友人たちと開催した「ある日のコンサート」(!)も

再現されるというから、かなり純度の高いシューベルト体験が出来そうですね。

ルネさんが見つけてきた、世界各国のミュージシャンも登場します。

(放送ではかけられなくてスミマセン!)

特にチェックしたいのは、トリニダード・ドバコのスティール・ドラム・カンパニーで

彼らがスティール・ドラムだけで演奏した「アヴェ・マリア」は、録音で聞きましたが

震えるような素晴らしさでした。

シューベルトが亡くなったとき、友人たちが演奏を実現させた

モーツァルトのミサ曲なども、演奏されるようです。

今日は、実際のルネさんの声とともにお楽しみいただきます。

小田島

2008/02/15

ダニエル・ドゥ・ニース

カリフォルニア出身のソプラノ歌手、ダニエル・ドゥ・ニースのデビューアルバムを

初めて手に取ったとき、ジャケット写真を見ててっきり

R&B系のディーバと勘違いしてしまいました。

スリランカとオランダの混血で、とても華やかなルックス。勝手に「オペラ界のビヨンセ」と

ニックネームをつけてしまったほどです。幼い頃からダンスを習い、ピアノや音楽理論も

早期教育として受けていたというダニエル。ティーン番組の司会で、エミー賞を受賞したことも

あるといいますから、かなり早熟なエンターテイナーだったのでしょう。

肝心のCD「スウィート・ディーバ」なのですが、内容はすべてヘンデルのアリア。

彼女の出世作である「ジュリアス・シーザー」をはじめ、「セメレ」や「リナルド」など

意外なほど渋い(!)選曲になっています。

歌唱的にもハイレベルの技術を要求されるアリアが多く、彼女自身、チェチーリア・バルトリ

を意識しているのかも知れないな、と感じました。

オペラ歌手としては新人類タイプなので、何より舞台での姿を見たい・・・・と

思っていたところ、来月サントリーホール主催のコンサート・オペラに出演するそうです。

役どころは「フィガロの結婚」のスザンナ。古典のアリアも得意なのでしょうね。

ぜひ一度インタビューをしてみたいプリマドンナです。

小田島

2008/02/14

「トリスタンとイゾルデ」~前奏曲と愛の死(ピアノ四重奏版)

0858 こんな面白いCDを見つけました。ワーグナーの名曲、「トリスタンとイゾルデ」より“前奏曲と愛の死”のピアノ四重奏版というものです。歌はフィリシティ・ロット。あの1994年のウィーン国立歌劇場来日公演でカルロス・クライバー指揮の「ばらの騎士」でマルシャリンを歌った名ソプラノです。明晰でノーブルな歌唱が本当に素晴らしい! そしてシューマン四重奏団(第1ヴァイオリンはテディ・パパヴラミ)による透明感のある室内楽編曲によって、ワーグナーの響きの中に隠れていた新たな魅力が浮かび上がります。他にヴェーゼンドンク歌曲、そしてマーラーのリュッケルト歌曲が収録されています。aeonというフランスのレーベルhttp://www.aeon.fr/から出たばかりの新譜(AECD 0858)です。ジャケットも美しいですね。

Isbn4791760506 「ジョン・ケージの音楽」(ポール・グリフィス著、堀内宏公訳/青土社)

英米を代表する音楽評論家、小説家、台本作家であるポール・グリフィスによるジョン・ケージについての考察の書です。書く対象に対する過剰な思い入れを排した知的な語り口が好ましいです。論点は明晰で、評論家にありがちな自己顕示もなく、淡々と書かれています。ケージをただのコンセプチュアル・アーティストとして扱うのではなく、具体的な一つ一つの作品について、きちんと言及されているのは入門者にとってもありがたいところです。

                                                   林田

2008/02/13

パリ国立オペラ記者会見のあとで、偶然…

先ほど、パリ国立オペラ初来日公演の記者会見に行ってきました。オペラ界の風雲児と称されるジェラール・モルティエ総裁が出席するとあって、大盛況でした。ザルツブルク音楽祭を革新した10年間はいまや伝説となりつつありますが、パリも2004年に彼が来てからは世界的にも注目のプロダクションを次々繰り出す最先端のカンパニーとなりました。7月の来日公演「トリスタンとイゾルデ」「青ひげ公の城」「消えた男の日記」「アリアーヌと青ひげ」が今年の日本の音楽界の一大イヴェントであることは言うまでもなく、私も大いに期待しています。昨日は幻冬舎の雑誌「ゲーテ」の取材で、このモルティエ氏に直接インタヴューすることができました。やはり、有無を言わさぬ強靭な知性を持った強烈なキャラクター、そして一種のカリスマ・プロデューサーですね。

ところで、パリ国立オペラの記者会見を終えてホテルを出ようとしたとき、入れ違いに入ろうとするある人物の姿を見て私は仰天しました。それは何を隠そう、指揮者チョン・ミョンフンその人だったからです。パリ国立オペラの黄金時代を現出させたかつての音楽監督であり、1994年に電撃解任されたあのチョン氏に、まさかパリの記者会見の直後で出くわすとは…! 「マエストロ!」と手を差し伸べた私と握手しながら「どうしたの? 何の取材?」。「いや、あの、パ、パ、パ、パリ…」という間もなく、ちょっと疲れた風のチョン氏は消えていきました。モルティエもチョンも、同じホテルに投宿しているなんてこと、お互い知らないんでしょうね。それにしても、こんな偶然って!

832047 「音の静寂 静寂の音」(高橋悠治著/平凡社)

いい演奏をしていさえいれば、いい音楽家なのでしょうか。そのことをいつも思います。本当にいい音楽家とは、言葉のすぐれた使い手でもあるはずです。なぜなら、言葉も音と深い関係があるからで、言葉に無頓着な音楽家は、本当のいい音楽家ではないと私は思っています。その意味で、高橋悠治はもっとも優れた音楽家です。そして彼の鋭敏で考え抜かれた言葉を追うと、音楽家としての責任意識の重さ、時代への批評精神の鋭さといったものを痛切に感じ、そして襟を正されるような思いをしながらも、喜びをもってその言葉に共感することができるのです。なぜなら、高橋悠治ほど権威や因襲に対して距離を持とうとする、良心的な人間はいないと思うからです。

                                                   林田

2008/02/12

ラ・フォル・ジュルネ記者会見

Photo に行ってきたところです。今年のテーマ「シューベルトとウィーン」に沿ったプログラムの詳細が発表されました。シューベルトの交響曲全曲、弦楽四重奏曲全曲、そしてピアノ連弾曲全曲が演奏されるほか、さらには合唱を得意とするこの音楽祭ならではの、合唱曲や宗教曲の多さも魅力です。もちろん、室内楽や歌曲などの主なシューベルトの名曲はほとんど取り上げられますし、ベートーヴェンからベリオまで、関連作曲家の多さも注目に値します。

Photo_4 こちらは音楽祭のアンバサダーとして記者会見に出席した脳科学者の茂木健一郎さん。公式ブックとして出た「すべては音楽から生まれる 脳とシューベルト」(PHP研究所)も、すでに4万5千部出ているとのことです。

931693 「フランツ・シューベルト」(前田昭雄著/春秋社)

シューベルトの深奥に少しでも迫るために必読の本です。原典や一次資料にあたりながら、丹念にシューベルトの生涯と作品について格調高く、しかし平易な語り口で書かれています。とても読みやすく、またシューベルトを愛する人にとっても、これからもっと聴いてみようという人にとっても、素晴らしいガイド、そして深く考えるためのきっかけになることでしょう。

                                                   林田

2008/02/11

クラシックとお国柄

最近よく、演奏者と作曲家の出身地、郷土性の一致ということを考えます。

ツィメルマンやブレハッチらポーランド出身のピアニストにとって、同郷のショパンの曲を

演奏することには、深い意義と愛着があると彼ら自身語っていますし

インターナショナルな芸術家のイメージが強いアンデルジェフスキーも

シマノフスキら同郷ポーランド人の作曲家をよく取り上げています。

チェコならバルトーク、ヤナーチェク、ノルウェーならグリーグ、

ゲルギエフも「ロシアもの」を演奏するときには、いつにもまして意気揚々としているように

見えることがあります。ドヴォルザークもリストも、自国を賞賛する曲を書きましたし

単に「愛国心」とは括れないような何かを感じます。

そこには、作曲家がヒントとしてきた「その土地の民謡のエッセンス」というものが

存在していると思いますし、東欧やロシアではその傾向も強いのかも知れません。

そうなると、ドイツ=オーストリア、フランス、イタリアの「お国柄」の問題は

もっと繊細かつ複雑になってくるのかも知れません。

ドイツにルーツをもつ準メルクルさんが、リヨン国立管弦楽団でマスターになっている

ことは、ひょっとしたらとても大変なことなのかも・・・・。

そんな「お国柄」への雑感と、ショコラの誘惑(パート2)などについて

今日は語ってみたいと思います。

小田島

2008/02/08

東京の味わいミニホール

海外で活躍する邦人アーティストに取材すると、皆さん異口同音におっしゃるのが

日本のコンサート・ホールのレベルの高さです。海外のアーティストも

オペラシティホールやサントリーホールの音響やデザインのよさを絶賛していますし

比較的新しい音楽ホールが多いことも要因に挙げられるとはいえ

この「ホール偏差値の高さ」は、日本人にとって誇るべきものと思ってよいのでは

ないでしょうか?

その中でも、今日は客席数が800以下の「ミニサイズ」の優れものホールについて

お話してみたいと思っております。東京文化会館の小ホールは、個人的に大好きな

ハコのひとつですが、客席数の649が「ミュージック」と掛詞になっていたことを

皆さんはご存知でしたか? 設計をされた前田國男さんの遊び心が伝わってきますよね。

そして、浜離宮朝日ホールは、アメリカ物理学協会が出版した世界のベストホールについて

の調査本で、なんとベスト9に入っています。

他のホールはいずれも1400人以上を収容できるホールで、552人しか入らない

このホールが高いランキングに入ったのは、実に驚くべきことです。

その音響のよさ、ブリリアントな響きは、きっと演奏者の方が一番よく理解して

いらっしゃるんでしょうね。ちょっと羨ましいです。

小田島

2008/02/07

アンスネスのモーツァルト

20080204144132_47a6a58c05afc ノルウェーのピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネスは、いわゆるビジュアル系の派手派手なスターではありませんが、音楽通の誰もが認めるスケールの大きな実力派であり、出すディスクの一つ一つが、大変注目に値するものです。アメリカでもかなり人気も高まっているということですが、やはり地味でも真摯に音楽を追求する人が結局評価されるんだと思います。今日は彼の新譜「モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番、第20番」(EMI TOCE56026)をご紹介します。

35_img 「世界鉄道めぐり 歴史と芸術を訪ねて」(山之内秀一郎著/交通新聞社)

19世紀に急速に普及し、ヨーロッパをはじめ世界中の生活を大変貌させた鉄道。これがクラシック音楽に影響を与えなかったはずがありません。本書は、鉄道のロマンを美しい写真と文で描きつつ、音楽や美術などの芸術との関連についても多く触れています。

                                                  林田

2008/02/06

モーストリー・クラシックの取材を受けました

いま、スタジオに「モーストリー・クラシック」の編集の方が見えています。音楽雑誌の取材を受けるのはやはり嬉しいものです。昔は私は「音楽の友」や「レコード芸術」にいたのでかつてのライバル誌ですが、まぎれもなくこの業界に活力を与えてくれる大きな存在だと思います。

9784882029885 「スペイン フェリペ2世の生涯 慎重王とヨーロッパ王家の王女たち」(西川和子著/彩流社)

ヨーロッパの王たちの中でも、黄金時代のスペイン(つまり世界帝国!)の王として君臨し、ポルトガル、イングランド、フランス、オーストリアの王女たちと結婚したフェリペ2世の生涯はとりわけ興味をそそるものですし、彼の行動が当時の西洋情勢、あるいは文化全般に与えた影響の大きさははかり知れないと思います。何よりも彼の生き様が興味深く描かれていて、楽しい読後感の味わえる本です。

                                                  林田

2008/02/05

大名曲

先週末に行ってきたベートーヴェン・オーケストラ・ボンのコンサートは、まさしく大名曲大会で、序曲「レオノーレ」第3番、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、そして交響曲第5番「運命」というものでした。そういうコンサートに行くことじたい久しぶりでしたが、ふだんのクラシック・オタク系のほとんどいないお客さんの層というものが、逆に新鮮でした。若い人が多かったのは嬉しいことでした。なんだベートーヴェンか知ってるよ、ではなく、そうかこれがベートーヴェンか、といった新鮮な気持ちで出会うことができるのは素晴らしいことです。

Mb21072m 「アマゾン・瀕死の巨人」(アラン・ゲールブラン著、大貫良夫監修/創元社)

美しい図版が好評のロングセラーの宝庫、知の再発見双書のひとつ。アマゾンの自然の驚異、そして豊かさ、神秘性はもちろんのこと、いかにヨーロッパ人たちの手によって、この聖なる森林とそこにすむインディオたちが陵辱され、屠られてきたかを知ることができます。やや古い本ですが、貴重な図版も多く、それらを見ているだけでも、アマゾンへの驚きを体験することができます。

                                                  林田

2008/02/04

夢を追いかけること

今年の七月に来日する英国ロイヤル・バレエ団のソリストには

何人かの日本人の方がいらっしゃいますが、吉田都さんもかつてこのカンパニーの

プリマであったように、海外で活躍する日本人ダンサーの方たちは、新しい世代も含めて

高い評価を得ているようです(ちなみに今回ロイヤルで来日する佐々木陽平さんは

私の中学の後輩に当たる方です・・・・盛岡もバレエの都です)。

その一方で、帰国したダンサーの方たちが異口同音におっしゃるのは、

日本ではまだまだバレエダンサーが職業として認められていない、ということです。

主役級の方に関してはそんなこともないのでしょうが、それ以外のダンサーにとっては

まだまだ厳しい状況なのが今の日本のバレエをめぐる環境のようです。

加えて、この景気の低迷。表現にたずさわる人間には、ますます過酷な時代に

なっているように思います。

バレエダンサーを目指す、ミュージカル・スターを目指す、ロックスターを目指す・・・

大手レコード会社でも、デビューしてから「芽が出るのが遅い」新人は、

以前より早いタイミングでレーベルから離れてしまうようです。

日本の「お金の流れの悪さ」が芸術に及ぼす影響はどのようなものか・・・

そんなことを考えながら今日は色々お話してみたいと思います。

小田島

2008/02/01

マリインスキー劇場

先日見てまいりましたゲルギエフ率いるマリインスキー劇場の

「ランスへの旅」(ロッシーニ作曲)は、この劇場の絶好調ぶりを伝える

見ていてとても爽やかでゴージャスなものでした。演目のストーリー自体は

フランスのシャルル国王の戴冠式の祝典のために書かれた、やっつけ仕事のような(!)

起承転結なのですが、音楽そのものの素晴らしさですべてOKになってしまいました。

長い間再演されることのなかったこのオペラを「復活」させたのはあのクラウディオ・アバド

でしたが、ゲルギエフはさらにオペラ自体をモダンなものにして生まれ変わらせたように

思います。たくさんの登場人物が、それぞれ超絶技巧の歌唱力を披露するのですが

マリインスキー劇場の若い団員たちは、いずれもハイレベルのパフォーマンスを披露。

マエストロ・ゲルギエフの創造力とパワーに共鳴して、オペラハウス全体が高揚している・・・

そんな上げ上げの空気感を感じました。

今日はその公演の模様と、ダニエル・デイ・ルイスの快演(怪演)がすごかった

ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」について

トークしてみたいと思っています。

小田島

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林田直樹

 音楽之友社に13年間在職、「音楽之友」「レコード芸術」などの編集に携わり、「グランドオペラ」の創刊にもかかわる。現在は、フリーのクラシック評論家として活躍。著書に「クラシック新定番100人100曲」(アスキー新書)など。 その他多くの新聞・雑誌・CDライナーノート・公演プログラムやAmazon.co.jpの音楽コラム等にも寄稿。

小田島久恵

 高校時代より洋楽雑誌「ロッキング・オン」に投稿ライターとしてロック評論を執筆、1991年から同誌に編集としてかかわる。2001年からクラシック批評を積極的に執筆開始。最近では、クラシック以外にも様々なジャンルも取り扱い、情報誌やファッション誌でも書評・コラム・エッセイなどを執筆。

2010年6月

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