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2007年10月

2007/10/31

日比谷公会堂

先ほど日比谷公会堂から帰ってきました。井上道義指揮によるショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏会のリハーサルを聴いてきたのですが、これが何ともすごい、いや素晴らしい響きでした。乾いた、直接的な響きなのですが、その分、音楽の表情がダイレクトに伝わってくる。特に2階席がいいです。ステージがものすごく近いだけでなく、音楽との距離も近いのです。古びた場内の雰囲気も最高で、昭和レトロがブームのようになっている昨今、こういう歴史あるホールで音楽を聴くことは、すごく新鮮な体験として多くの人にも喜ばれるのではないでしょうか。

061238 「なぜ、その子供は腕のない絵を描いたか」(藤原智美著/祥伝社)

芥川賞作家の筆者が、いま幼児の世界で起きている異変を描き、問題提起した本です。母親が圧迫される密室育児、子供の自立を阻む過保護の実態、そしてそれを助長する社会について、改めて考えさせられました。本書で告発されているように、いま子供の世界はますます解体され、大人の管理下に置かれているのだと思います。

                                                  林田

2007/10/30

本を読むノルマ

1週間に3冊もよく本が紹介できますね、と言われることしばしばです。私としては、もうこうなったら自分に課した義務を作って、とにかく1冊でも多く読む習慣をこの際つけてしまおう、と思っています。それに、読んでいる人はもっとずっとたくさん読んでいるでしょうし。とにかく楽しもう、と思って、今日も寸暇を惜しんで速読でした。

4591099121 「名著誕生1 マルクスの資本論」(フランシス・ウィーン著、中山元訳/ポプラ社)

資本主義についてのマルクスの分析には誤謬もあったでしょうが、19世紀のヨーロッパが生み出した精神的な巨人として、相変わらずマルクスは政治・経済の領域を超えて魅力的な存在だということをこの本は教えてくれます。貧困とはお金がないということではなく、人間の精神が砕かれることだ、という指摘など、素晴らしい洞察だと思います。解説で佐藤優氏が書いておられるように、一般の人にもわかる平易な言葉で書かれた、マルクスについての標準的な入門書となるに違いありません。

                                                   林田

2007/10/29

ばらの騎士

今年の東京は「ばらイヤー」です。先ほど来日を果たしたチューリッヒ歌劇場に続き

11月にはドレスデン国立歌劇場もこのオペラをとりあげますし、新国立オペラ、そして

滋賀県のびわ湖プロデュース・オペラでの上演も決まっています。

R・シュトラウスの「ばらの騎士」の魅力とは何か?

スコアにして電話帳のような厚さという、歌詞も多くオーケストラの編成も大きな

「ばら」は、演じる側にも多大な技術と体力、表現力を求めるといいます。

また、ある歌い手さんにお話をうかがったところ、R・シュトラウスの音楽は

ヴェルディやプッチーニと異なり、フェイントをかけてくるところが特徴的なのだとか。

ズボン役のオクタヴィアンを歌うメゾソプラノにとっては、新しい恋に

魅了されてからの豹変ぶりが、なんとも痛快らしいです。

26年ぶりに来日するドレスデン国立歌劇場は、どんな「ばら」で日本の観客を

魅了してくれるでしょうか? 世界広しといえど、一年に何度も「ばら」の聴き比べ

ができる街は、唯一東京だけでしょうね。

小田島

2007/10/26

椿姫

プラハ国立歌劇場で見てきたヴェルディの「椿姫」は、

このオペラの人気の秘密を納得させてくれるような上演でした。

火の輪をくぐりぬけるアクロバットのようなヴィオレッタのアリア、

物語の裏を支える「お金に支配された人間」という根源的な問題

そして愛する二人を制圧する役割としてのジェルモン=バリトンの重要性・・・。

ヴィオレッタを演じたディミトラ・テオドッシュウは、きらびやかなだけではない

繊細できめ細やかな性質を主人公に与えていて、とても好感が持てました。

見方によってはリアリズムそのものの物語でもあり、最後のシーンは

いつも自分の足元を見てしまいます。ヒロインが死んでしまうのに

あんなに「泣けない」オペラもないのではないかと思います。

「自由奔放に生きたヴィオレッタは幸福だったけど、階級社会で

不満を抱えて生きていた(「コジ・ファン・トゥッテ」の)デスピーナのほうが

悲劇的で不幸だった」と語ってくれたステファニア・ボンファデッリのことなども

思い出してしまいました。

今日はそのほか、明日が誕生日のパガニーニについてなども

お話したいと思います。  

小田島

2007/10/25

レディオヘッドの挑戦

イギリスのロックバンド、レディオヘッドの新作がレコード会社を通さない、オフィシャルサイトからのダウンロード配信のみでリリースされています。しかも、値段はリスナーが自由につけていいというのが面白い。これはひとつの挑戦であり、音楽の世界での流通のあり方を根底から変わる時代の到来を予感させます。有機農法野菜の産直販売と同じで、生産者と消費者ができるだけ直接つながることが望ましいのは言うまでもありません。そうなるとレコード産業はどうなるのか。少なくとも既存のやり方での商売はますます立ち行かなくなってくることが予想されますね。

4582218190262 「ドビュッシー:海、細川俊夫:循環する海、他」(準メルクル指揮フランス国立リヨン管弦楽団 ナクソス 8.570775)

N響定期や新国立劇場のワーグナーなどで人気の指揮者、準メルクルの11月来日に合わせて発売されたナクソスの新譜です。ザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルによって初演された細川俊夫さんの「循環する海」は、空と海を循環する水のビジョンを盛り込んだスケールの大きな、地球への思いを感じさせる名曲。日本の作曲家の作品にもぜひ注目していただきたいと思います。なお、メルクルはナクソスにドビュッシー管弦楽曲全集を今後録音していくそうです。

2583961 「近代日本の右翼思想」(片山杜秀著/講談社)

片山さんは「レコード芸術」に常時寄稿するなど音楽関係では良く知られた評論家ですが、本来のご専門がこうした分野です。日本がなぜ天皇を中心とした軍国主義国家となって1945年8月のあのような破局へと向かっていったのか、いま改めて総括することが求められていると思いますが、そうした中で、日本近代の右翼思想の多様性を知り、それを整理し、関連分野の広さを直視し、その底流にあった可能性・必然性に目を向けることも必要なのだと思います。でなければ、なぜ宮澤賢治が田中智学(日蓮宗系の新興宗教団体、国柱会の指導者。超国家主義者)の信者になったのか、という疑問(「憲法9条を世界遺産に」で太田光さんも言っていました)にも答えられないでしょう。あの戦争の「なぜ」を考える上で、大きな示唆を与えられる本です。

                                                  林田

2007/10/24

鳥の声、水の音

最近、コンサートホールで音楽以外の音を使ったパフォーマンスに続けて出会いました。先ほど行ってきたサントリーホールのポエティックドラマ「みすゞとテルと母さまと」、そして先週土曜日の東京交響楽団定期で日本初演されたヘンツェのオペラ「ルプパ」もそうでした。純粋な音楽だけでなく、音や言葉やいろいろなものが、コンサートホールでのパフォーマンスの要素として再発見されつつある時代なのかもしれません。

01553301_20061110000257 「ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る」(門倉貴史著/宝島社新書)

数字やデータだけで社会事象を分析したりわかったつもりになるのは大変危険なことだと思います。一人ひとりをじっと観察すること、それこそが物事の深層に迫る最良のジャーナリスティックな方法ではないでしょうか。本書が他の格差社会を分析した本と違うのは、きちんと「ひと」に目を向けている点です。年収200万円以下の就業者が550万人以上いるという現代日本の格差の実態も驚きですが、本書で取材されているさまざまな人たちの生の声こそ、必読だと思います。

                                                  林田

2007/10/23

詩と音楽

詩人・金子みすゞをテーマにしたポエティック・ドラマ「みすゞとテルと母さまと」が今日から25日までサントリーホール・ブルーローズ(小ホール)で行われます。音楽がメインのホールで、こうした詩をテーマにした出し物が行われるのは素晴らしいことだと思います。詩を声に出して音にすることで、生まれてくる力は、音楽と同じくらい強いものですし、それをライブで体験するのは、コンサートととても近い行為だと思うのです。

300356b 「知識無用の芸術鑑賞」(川崎昌平著/幻冬舎新書)

芸術とは思考のための素材である、という定義のもと、古今東西の58のさまざまな「アート」……ピカソ、モネ、ダリから荒木経惟、尾形光琳、ディック・ブルーナ、村上隆、ケージまで……について、縦横無尽な視点を提示してくれます。知識無用の、楽しい味わい方が満載で、近来まれに見る楽しい本です。大推薦!

                                                  林田

2007/10/22

サラ・チャンのモダニティ

サラ・チャンというと、8歳でフィラデルフィア管との共演でデビューした天才ヴァイオリニスト、

その後モベルリン・フィルをはじめとする一流オーケストラの共演が多く

華やかできらびやかな演奏をするソリストというイメージがありました。

しかし、彼女がオルフェウス管弦楽団と共演したヴィヴァルディの「四季」は

彼女の新しい側面が表れているCDで、「室内楽の経験はあまりない」と

自ら語る彼女が、アンサンブルの魅力に取りつかれているのが伝わってきます。

バロック・ヴァイオリンによる録音も増えてきている中で、サラは徹底的に

自分のモダン・ヴァイオリンとバロック・ヴァイオリンの音色を聞き比べ

その差異を実感しながら、モダン楽器による解釈を深めていったのだそうです。

また、過去の「四季」の録音もかなりの数を聞いたのだとか。

申し分のない才能をもつアーティストもまた、新しい挑戦のために

さまざまな努力を行っているのですね。

また欧米におけるアジア・アーティストの人気という点で、どこかフィギュアスケートの

ミシェル・クワン選手と重なるイメージもあります。

もうひとり、ヴァネッサ・メイというヴァイオリニストもいましたね。

今日はその新譜のご紹介や、今日誕生日の作曲家、フランツ・リストについて

お話する予定です。

小田島

2007/10/19

モーセとアロン

今日は、昨日観てきたばかりのシェーンベルクのオペラ「モーセとアロン」について

ベルリン国立歌劇場の合唱のすごさと、ユダヤのルーツにかかわる作品ゆえの

指揮者バレンボイムの熱意、演出家のムスバッハの才能についてお話する予定です。

音楽そのものが「難解」という印象の作品を、極端に現代化・無機質化した装置と演出が

かえって観やすくしていたという印象がありました。

ムスバッハの演出は、武満の音楽へのオマージュとして制作されたオペラを観たときも

感じたのですが、思考を刺激すると同時に、言葉にはならないある感覚を

はっきり照らし出すものだと思います。

単純なエンターテイメントではない「考えるオペラ」が続々生まれるドイツの劇場は

世界でも、稀有のパワースポット(!?)なのかも知れません。

イタリア式のこってりした演出も楽しいのですが、ムスバッハやコンヴィチュニーの

エッジーな表現も、今この世界には必要なのだと思います。

小田島

2007/10/18

バダジェフスカ作品集

4107072047 「かなえられた乙女の祈り バダジェフスカ作品集」ユリヤ・チャプリーナ(ピアノ)〔キング KKCC3019〕

「乙女の祈り」という超有名なピアノ曲がありますが、その作曲者であるテクラ・バダジェフスカ(1834-1861)の知られざる作品を集めたCDが出ました。世界初企画。ショパンと同時代に生きたポーランド人のこの女性の人生、そして他にもあったピアノ曲の数々には驚かされました。音楽史の中に隠された可憐な花に目を向けた企画としても素晴らしいと思います。弾いているのは1987年生まれのロシアのピアニスト、ユリヤ・チャプリーナ。6つくらいの国際コンクールで1位を総なめにしている逸材で、近い将来大化けするかもしれません。10月24日発売。

02624861 「モーツァルト オペラのすべて」(堀内修著/平凡社新書)

モーツァルトのオペラ作品のみならず、オペラ上演の現在についても、わかりやすく解説している本で、私も大変参考になりました。何かを肯定するために、勢いあまって別の何かを比較の対象としてつい否定的に決めつめたりすることの多い日本の音楽評論ですが、堀内さんは柔軟に多様な演奏や上演の価値を認め、大きな流れの中に位置づけているところも素晴らしいと思います。モーツァルトのオペラ入門として最良の書です。

                                                           

                                                 林田

2007/10/17

2008年は中南米の存在がクローズアップされそう

今日のニュースで、皇太子さまが日本人のブラジル移住100周年を記念して、来年6月にブラジルに訪問することが決定したと聞きました。来年秋にはチェ・ゲバラの娘アレイダ・ゲバラさんが来日しますし、ベネズエラのユース・オーケストラも来日しますし、他にも注目すべきイヴェントがたくさん予定されています。2008年は中南米と日本との関係がいっそう深まる年になるかもしれません。「新世界クラシック」が本当の意味で注目されるのも、来年になるのかもしれません。

203651 「ぼくはエクセントリックじゃない グレン・グールド対話集」(ブリューノ・モンサンジョン編、粟津則雄訳/音楽之友社)

グレン・グールドについて書かれた本、伝記はたくさんありますが、他人の解釈・議論よりもまず、グールド自身の刺激的な言葉に触れることが一番でしょう。そうした中で、もっとも優れたグールドの言葉を集めたのがこの本だと思います。グールドの最大の理解者の一人だった映像作家モンサンジョンが編んでいます。きっと音楽の本質についてなるほどと思わせられる言葉に出会えるはずです。

                                                  林田

2007/10/16

これは面白い!陸上自衛隊のコンサート

10月20日に陸上自衛隊朝霞訓練場で自衛隊の大砲を使ったコンサートが行われ、そこでチャイコフスキー:大序曲「1812年」、ベートーヴェン:「ウェリントンの勝利」などが演奏されるそうです。これは聴きものですね。チャイコフスキーでは105ミリキャノン砲、ベートーヴェンでは旧式のライフルを使うそうで、これはかなり本格的な演奏になるのでは。自衛隊ならではのコンサート、興味ある人はぜひ。松本零士さんもゲストに来られるそうで、組曲「宇宙戦艦ヤマト」も演奏するそうです。グーグル検索に「陸上自衛隊朝霞訓練場」と入れて出てきたページにコンサートのバナーがありますのでご確認ください。

C5c1c0e2a4cea5afa5e9a5b7a5c3a5afa5e 「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)

かつてFM東京でクラシック番組のプロデューサーだった東条碩夫さんの巨匠たちの収録秘話が何と言っても面白いです。ミケランジェリ、カラヤン、シュワルツコップ、ポリーニといったアーティストたちの思わぬ素顔がわかります。音楽とは単に美学の視点だけから語られるだけでなく、こうした生々しい「現場」の出来事として語られてこそ初めて理解できる側面もあるのです。これは貴重な時代の証言ということができるでしょう。

                                                   林田

2007/10/15

ふたつの演奏会

10月はよい季節で、都内でもクラシックの演奏会が目白押しです。

私も土日は、紀尾井シンフォニエッタ東京と東京交響楽団の定期演奏会に

行って参りました。紀尾井シンフォニエッタはチェリストのマリオ・ブルネロによる

指揮とソロで、ブルネロの情熱と才能を堪能することができ、大感動でした。

富士山頂でバッハの無伴奏チェロ組曲を弾くなど、冒険家のような活動でも知られる

ブルネロですが、彼が感じている森羅万象の神秘は、音楽にしっかりインストール

されていました。いってみれば「宗教観」のようなものなのかも知れませんが

大いなる何かへの帰依を感じさせる演奏は、やはり聴いていても特別なものです。

そして日曜日の東京交響楽団(名曲全集 第31回)も素晴らしかったです。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲二長調を演奏した松山冴花さんの演奏は

すべての音が擬人化されている感じというか、肉体とか感情がリアルに伝わってくる

音で、今まで聞いたこともない「肉迫した」チャイコフスキーだったんです。

稀有の音色をもっ方だと思いました。今後も演奏会を追跡してみたいです。

今日はそれに加え、芸術とナショナリティについての考察などを

トークで触れてみたいと思います。

小田島

2007/10/12

ユニークであること

フリードリヒ・グルダのDVDを見て、生前はエキセントリックといわれることが

多かったこの芸術家の本質に、少しだけ触れたような気がしました。

独特の芸術観の持ち主であった彼は、アカデミズム的な体制に反発することも

多かった人ですが、「彼の風変わり」というのは、表層的なものではなく

彼の芸術全体と切り離せない本質的なものであったように思います。

クラシックのコンサートでジャズを披露したことなども有名なエピソードですが

グルダのジャズへの系統は、幼少期の音楽体験に遡るものです。

ピアニストには、グールドやこのグルダをはじめ、奇矯なイメージの強い芸術家が多い

のですが、アファナシエフの話などを聞いても、「そういう表現をするためには

そうなるための重層的な理由があるのだ」ことが理解できます。

「エキセントリック」という遠巻きな言葉から、一歩踏み込んだ理解を深めることが

必要な気がしています。

今日は他にアンデルジェフスキのベスト盤、村治佳織さんの二度目のアランフェスの

レコーディングについて触れてみるつもりです。

小田島

2007/10/11

内田光子の「ハンマークラヴィーア」

Uccp1128uchida 「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番、第29番《ハンマークラヴィーア》」内田光子(ピアノ) (ユニバーサル UCCP-1128)

ベートーヴェンのピアノ作品の中でも、もっとも巨大で難解な、まるで神殿のような「ハンマークラヴィーア」が、内田さんならではの強靭な集中力をもった演奏によって、初めて奥の間まで開かれたように思います。この曲を聴くときは、襟を正して、全身で向かっていかなければいけないし、ある意味精神的な格闘を要求する曲でもありますが、それだけに何事も徹底する内田さんの本領が発揮されていると思います。

85_177 「入門 日本の太鼓 民族、伝統、そしてニューウェーブ」(茂木仁史著/平凡社新書)

日本の太鼓は、現代の音楽シーンを語る上でますます欠かせないものになってきていますが、その成立と歴史、諸相についてわかりやすくまとめた好著です。日本の美を再確認する上でも、大きなヒントを与えてくれます。息長く読まれるべき本です。

                                                  林田

2007/10/10

ヴェルディの誕生日

今日はジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)の誕生日。オペラ好きにとっては特別中の特別な作曲家です。私も、昔クラシック音楽を好きになり始めたばかりの中学生の頃はシンフォニーやピアノや室内楽を中心に聴いていましたが、のちにオペラに溺れるようになってからは、やはりヴェルディにぞっこんになりました。私がヴェルディのオペラでもっとも愛するのは「ドン・カルロ」。特に、矛盾する人間関係や理念を抱え込んだロドリーゴという人物には共感を覚えます。フィリッポ2世の孤独や宗教裁判長の非情も素晴らしい。こうした人物造形の豊かさにおいて、ヴェルディのオペラはドストエフスキーの小説と同じくらいに、比類ない領域に達していたと思います。

51xeyngf1rl 「マクベス」(シェイクスピア作、木下順二訳/岩波文庫)

ヴェルディも作曲したオペラの原作でもある、シェイクスピアの偉大な悲劇です。私はこれを読み返すのが大好きで、すさまじい言葉の力、そして行間から漂ってくる音楽を感じます。ヴェルディはシェイクスピアを自らの芸術の師匠として「お父さん」とまで呼んでいたわけですが、オペラ「マクベス」がいかに魔女たちの不吉さを音楽的にクローズアップした、ヴェルディらしい傑作であるか、この戯曲を読むとさらに実感できます。木下順二の訳も格調高くしかも読みやすい名訳だと思います。

                                                   林田

2007/10/09

せんくら

Photo 仙台クラシック・フェスティバル、略して「せんくら」に、10月8日だけ日帰りで行ってきました。左の写真は仙台市太白区文化センターでの公演の入り口付近。アンケートを回収するボランティアスタッフ。オフィシャルカメラマンもボランティア。彼らの活躍が、音楽祭全体の雰囲気をとても良くしていました。3日間101の公演がすべて前売1000円(当日1500円)というのは、日本のクラシック音楽界でももっともリーズナブルなお値段だったのでは。今回、その中でも、音楽的に印象に残ったのが福田進一さんのギター・リサイタル。ソルという作曲家はギターの専門みたいに思われがちですが、いかにオーケストラ的な、それもオペラやバレエの劇場感覚(それも熱狂的なノリ)を身に付けていた人だったかを改めて知ることができました。ギターの世界も実に幅広い、いろいろな人がいたわけですし、全然閉じた世界なんかじゃないですね。

325d3fe5 「これで納得! よくわかる音楽用語のはなし」(関孝弘、ラーゴ・マリアンジェラ共著/全音楽譜出版社)

以前も自分のブログで紹介したことのある本ですが、本当に楽しい、そしてためになる本です。イタリア語の日常の意味を知ることは、音楽用語の意味をより深く知る上で必須だと思います。アレグロ、レント、アンダンテ、ヴィヴァーチェ、モデラート、ピツィカート、クレッシェンドなど、いろんな音楽用語のイタリア語本来の意味にびっくりさせられます。いかに教科書的な知識で音楽を解釈してきたかについて考えざるを得ません。目からウロコとはこのことです。

                                                  林田

2007/10/08

本質の時代 境界の消滅する時代

週末は仙台クラシック・フェスティバル2007を聴いてまいりました。

お目当ての中鉢聡さんのテノールと、米良美一さんのカウンターテナーを堪能して

きたのですが、お二人とも予想以上にパフォーマーとして成熟した姿を見せ

心に消えない何かを刻印してくれました。

中鉢さんは、イタリア人よりイタリア人っぽい人懐こさとエンターテイメント精神で

音楽の途方もない楽しさを観客に伝えてくれましたし

米良さんは、この時代にはっきりと強いメッセージを出して世を正していく

凛とした表現者としての姿を見せてくれました。

「これからは本質の時代」と言い切った米良さんの生き様に

芸術を超えたパワーと信頼感を感じ、勇気をもらった気がしました。

その話題に加え、今日は本田聖嗣さんのピアノリサイタルのお話

オタール・イオセリアーニ監督の最新作「ここに幸あり」のご紹介などを

させていただく予定です。

小田島

2007/10/05

アファナシエフの手

大物アーティストの取材の前というのは、いつも身構えて必死にあれこれと

質問を考えて行くのですが、相手が大きな存在であればあるほど

その包容力とかスケールの大きさに救われて帰ってきます。

半ば、戦いを挑むような緊張感で出かけていっても、フタをあけてみると

語らいの場というのは、むしろ大きな「愛」に包まれていたりするんです。

火曜日に取材したロシア出身のピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフがまさに

そんな人物でした。

彼が感じている「時間」や「詩の論理」というものは、とても深くて

引き込まれていくような魅力がありました。また、とても穏やかな方で

インタビューが終わった後のふんわりとした笑顔は、特に忘れられません。

ゆったりとしたテンポでシューベルトを弾く手は、とても綺麗な形をしていました。

今日はその取材で感じたことや、チェリストのジャン・ギアン・ケラスと

ダンサーの森山開次さんとのコラボレーション、ノルウェーのピアニスト

レイフ・オヴェ・アンスネスの新譜についてお話したいと思ってます。

おだしま^^

2007/10/04

魔弾の射手ミサ

Wpcs12049 「ウェーバー作品集」アヴィップ・プリアトナ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(ワーナーミュージック WPCS-12049)

この中に収められている「魔弾の射手ミサ」という曲は、同じウェーバーのあの有名なオペラと共通の素材が使われているのですが、それよりも何よりも、曲そのものがとても格調高く美しいのです。隠れた名曲ですね。そしてオーケストラ・アンサンブル金沢と共演しているインドネシアの合唱団、バターヴィア・マドリガル・シンガーズが素晴らしい。いくつもの驚きに満ちたCDです。

000607 「北欧音楽入門」(大束省三著/音楽之友社)

シベリウスとグリーグの記念イヤーをきっかけに北欧音楽をもっと知りたいという人に最適の本です。大束省三さんの人間的な味のある、自由で思いのままに個人的な体験を盛り込むエッセイ風のスタイルも、読んでいてとても楽しい。生きるということと、音楽を愛するということが、切っても切り離せない人の愛ある文章こそ、音楽ファンの共鳴を呼ぶのだと思います。こうした暖かい著作の方が、冷たく斬って捨てるような「批評」よりどれだけ世の中のためになることか、と思います。

                                                  林田

2007/10/03

ドレスデン国立歌劇場来日公演の指揮者変更

というニュースがいま入ってきました。音楽監督ファビオ・ルイジが「ばらの騎士」「サロメ」を、準メルクルとガボール・エトヴェシュが「タンホイザー」を指揮することになりました。11月に来日を控えての変更ですが、「芸術的観点から最良の公演を行うため」とのことです。

9784480063823 「お節介なアメリカ」(ノーム・チョムスキー著、大塚まい訳/ちくま新書)

ブッシュのアメリカが行ったイラク戦争について、チョムスキーははっきりと「侵略戦争」だと弾劾しています。この本を読んでいると、「民主化」が必要なのはイラクではなくアメリカの方ではないかとさえ思えてきます。中南米諸国に対するアメリカの諸悪についても触れられていて、ラテンアメリカの文化に関心を持つ人にとっても教えられるところの大きい本です。

                                                    林田

2007/10/02

彼岸花

秋の到来ですね。うちの近くには彼岸花がたくさん咲いているのですが、1年のうちでももっとも正確に季節を感知する花のひとつですよね。私は子供のころから彼岸花は憧れの花でした。

41wvrj3bw7l 「物語ラテン・アメリカの歴史 未来の大陸」(増田義郎著/中公新書)

ゴンドワナ大陸の地殻変動、人類の大移動から悠久の歴史を俯瞰しつつ、ラテン・アメリカの本質について考えさせてくれる本です。歴史的な文脈を大づかみにできるという意味でも有意義ですし、具体性あるエピソードにも事欠かず、読み物としても非常にエキサイティングな本です。ラテン・アメリカを知る上でも必須の名著ではないでしょうか。

                                                  林田

2007/10/01

秋のピアニスト

雨模様なのが残念ですが、よい感じの秋の気配になってきました。

デパートの催事場ではこの季節、イタリア祭りをやっているところも多いようです。

銀座の松屋では、イタリアの食材や美術品を賑やかに陳列していました。

ポルチーニきのこの深い香りは、松茸に匹敵する何かがありますね♪

今日は、ラファウ・ブレハッチの新譜「24のプレリュード」を筆頭に、古今東西の

プレリュードの名演、音楽における「慎ましさ」についてお話したいと考えています。

ドイツ映画「4分間のピアニスト」のご紹介も・・・。これはとにかく衝撃の映画でした。

バイオレンスとピアニストを結びつけた映画というのは、案外多いように思います。

「真夜中のピアニスト」という映画もありましたね。

ではでは秋の夜長をピアノトークで埋め尽くしたいと思います^^

小田島

profile

林田直樹

 音楽之友社に13年間在職、「音楽之友」「レコード芸術」などの編集に携わり、「グランドオペラ」の創刊にもかかわる。現在は、フリーのクラシック評論家として活躍。著書に「クラシック新定番100人100曲」(アスキー新書)など。 その他多くの新聞・雑誌・CDライナーノート・公演プログラムやAmazon.co.jpの音楽コラム等にも寄稿。

小田島久恵

 高校時代より洋楽雑誌「ロッキング・オン」に投稿ライターとしてロック評論を執筆、1991年から同誌に編集としてかかわる。2001年からクラシック批評を積極的に執筆開始。最近では、クラシック以外にも様々なジャンルも取り扱い、情報誌やファッション誌でも書評・コラム・エッセイなどを執筆。

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